2015年6月21日日曜日

25巻 その279 乱世の城





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ウィキペディアより

 戦乱を避け揚州に避難していたが、建安年間の初めに、袁術の部将である戚寄・秦翊を説き伏せ、共に曹操に帰順し、曹操を大いに喜ばせた。

建安5年(200年)頃、揚州刺史の厳象が廬江太守の李術に殺害される事件が起き、さらにその隙を衝いて、廬江の梅乾・雷緒・陳蘭らが数万の軍勢で跳梁した。

曹操は袁紹と対峙していたため、自ら討伐に向かえなかったが、劉馥ならその任に堪えられるとみなし、後任の揚州刺史として派遣した。

劉馥は、単身で合肥に乗り込んでここに政庁を設置し、雷緒たちを帰服させた。

数年もすると仁政と教化の効果が現れ、揚州の政治は安定し、他の地方の人民までが劉馥を頼って集まってくるほどであった。さらに屯田・灌漑事業を推進して良好な結果を残し、財政的に余裕も出るようになった。

建安13年(208年)、劉馥は死去した。劉馥が築いた堤防や蓄積した物資は、孫権の合肥攻撃の際に、これを撃退する上で大いに貢献した。


小説『三国志演義』では、揚州刺史としての功績が言及されている。しかし赤壁の戦いに従軍した際に、曹操の詩を不吉と批判したため、酔っていた曹操の不興を買って殺害される。酔いから覚めた曹操は、自らの行為を泣きながら後悔し、三公の礼をもって手厚く葬るよう、子の劉熙に劉馥の遺体を引き渡している。
ただし劉熙は、史実では劉靖の子、すなわち劉馥の孫にあたる人物であり、これは『演義』作者の脚色上の誤りと思われる。


漫画『蒼天航路』においては、登場時に故人ながら、存命時に曹操に揚州刺史に任ぜられ、単身で何もない空城合肥を8年で7万の民を抱く一大城市に興したという史実に沿ったエピソードが載せられ、『演義』よりも存在感の大きい役柄となっている。

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三国史人名事典より

字は元穎。沛国相の人。

戦乱を避けて揚州に住まいしていたが、建安年間(一九六~二二〇)初め、袁術の将戚寄・秦翊とともに曹操に身を寄せたので、曹操は喜んだ。司徒に招かれて掾となった。

のちに孫策の任命した廬江太守李術が揚州刺史厳象を殺し、同郡の梅乾・雷緒・陳蘭らが軍勢数万人を集めて長江・淮水一帯の郡県を侵害したが、曹操はちょうど袁紹と事を構えており、劉馥ならば東南方面を任せられるだろうと考えて、揚州刺史に任命するよう上表した。

劉馥はただ一騎にて合肥の空き城に入り、そこを州の治府とした。南方に手を伸ばして雷緒らを手懐けると、みな彼の元に集まった。都への献上物は数年間欠かすことなく、恩徳ある教化は大いに行われた。百姓たちはその政治を楽しみ、流民どもも山や川を越えて帰服したが、その数は万単位に上った。そこで書生たちを集めて学校を設立し、屯田を実施、芍陂および茹被・七門・呉塘といった堤防を築いて灌漑を行ったので、官吏も民衆も豊かになった。

また木石を積み上げて城壁を高め、むしろを数千万枚作り、魚の油数千石を蓄えて戦争に備えた。のちに孫権が軍勢十万人を率いて合肥に攻め寄せたとき、むしろを被せて長雨をしのぎ、魚の油を燃やして敵の夜襲に備え、こうして百日以上も持ちこたえて孫権軍を敗走させられたのは劉馥のおかげなのである。

建安十三年に卒去した。

【参照】袁紹 / 袁術 / 厳象 / 秦翊 / 戚寄 / 曹操 / 孫権 / 孫策 / 陳蘭 / 梅乾 / 雷緒 / 李術 / 合肥侯国 / 呉塘 / 七門 / 芍陂 / 相県 / 茹被 / 長江 / 沛国 / 揚州 / 廬江郡 / 淮水 / 掾 / 刺史 / 司徒 / 太守

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エピソード魏書 15-1 劉馥 より



蒼天航路の作者は 「劉馥」 をけっこう気に入ってたみたいでして、
「作品内で忘れて欲しくない人物10人の内の1人」 と語ってます。

劉馥は後に 「呉」 との戦いで最前線基地となる 「合肥城」 を巨大要塞に作り変えた男。
蒼天航路では 「279話」 に登場するのですが、すでに故人となっており、
「合肥城」 を訪れた曹操が、劉馥の残した遺産に感謝する・・・って話。


正史においても劉馥の最大の功績として、「合肥城」 を整備したコトが挙げられてます。

劉馥が 「合肥城」 に着いたときは何もない空城だったのですが、
州庁を整備して、学校を建て、屯田を拡大させ、護岸工事を行い、米の増産に努めたため、
合肥城はかなり豊かになっていきました。
城壁・土塁を高く築いて、草むしろや魚の油を貯蔵したりして、要塞化も進めてます。

劉馥は 「赤壁の戦い」 が始まる前の208年に病死。
しかし彼が懸命に行ってきた合肥城の強化・・・。
これは彼の死後。「呉」 との戦いで絶大な効果をもたらしました。


2013年12月1日日曜日

18巻 その201 才の奔流

2013年12月1日

「蒼天航路」

18巻  その201  才の奔流

蒼天航路(18) (モーニングKC (664))

曹植(そうしょく 字:子建しけん 曹操の第三子)

曹植が許都にて詩う

言葉は
自由で強靭だ!
矛にも勝れば
盾にも勝ろう!

檄文に乱を
おこすことが
できるなら

詩歌で乱世を
終わらせることも
可能だ!

人の心から
乱世を
終わらせるんだ!

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 広告、宣伝で戦争を起すことができるなら、

ネットの言葉から平和を創り出すこともできる。

すべてはイメージされた意志が現実化されたもの。

まずは、他人が植え付けたイメージでなく、

心をふるわせ、感動し、先入観に囚われた心を解き放とう。

教え込まれた常識だけで判断するのは、

狂信者と変わりない。

狂信者は、自分自身を狂信者と思わず、

自分自身を普通と思っている。

戦争はそうした普通の人たちが異常なことをやりとげる。



蒼天航路 全36巻 巻別目次

蒼天航路 全36巻 巻別目次

1巻
その1 トンの都
その2 阿瞞の剣
その3 快童来々
その4 許緒の天佑
その5 再 会
その6 馬上問答
その7 黄砂を呼ぶ指
その8 水 晶
その9 煙の魔人
その10 淫 獣
 
2巻
その11 曹操の朝服
その12 アモーレ!!
その13 水晶 燃ゆる
その14 張譲の傷
その15 鶴雲
その16 
その17 鬼 神
その18 天の法衣
その19 鷹と門
その20 五彩棒
その21 傀儡と天秤
その22 十常侍
3巻
その23 桃仙院
その24 亶公殿下
その25 奸 計
その26 曹操の舞
その27 炎の宴
その28 遠い天
その29 曹操、東へ
その30 劉備玄徳
その31 鬼嚢様
その32 首を狩る男
その33 天の器
その34 新しい力
その35 官能の歌姫

4巻
その36 皇帝を生む女
その37 佞言断つべし!!
その38 荀或見参
その39 群龍、目覚める
その40 ただ今参上!!
その41 電光石火
その42 天・地・人
その43 第3の男
その44 騎兵に退路あり
その45 首狩り鬼嚢
その46 2人の張
その47 大乱の峠
その48 指揮権強奪
5巻
その49 大賢良師昇天
その50 凶 兆
その51 崩 御
その52 人無き世の獣
その53 無法なる者
その54 呂布登場
その55 恐怖の契り
その56 炎の問答
その57 呂伯奢
その58 群雄、立つ
その59 徐栄来襲
その60 無謀なり、曹操
その61 語るに術なし

6巻
その62 酸棗にて
その63 曹操はどこだ!?
その64 赤兎馬、咆哮
その65 呂布、飛翔
その66 関羽の武
その67 戦局を動かせ!!
その68 崖の上の大義
その69 五色の龍
その70 郭嘉と荀彧
その71 貂蝉誕生
その72 怪童の帰還
その73 巨星昇天
その74 毒蛇を娶る者

7巻
その75 獣の愛
その76 龍の目覚め
その78 魔王の余韻
その79 黄巾の子ら
その80 素晴らしき悪魔たち
その81 曹操の城壁
その82 強の始まり
その83 静かなる猛将
その84 趙雲、星を見いだす
その85 修羅の覇道
その86 天下のものなり

8巻
その87 輝きがもたらすもの
その88 劉備の本気
その89 涙
その90 黒い嵐
その91 龍とともに在り
その92 汎の決意
その93 大 地
その94 二人の旅立ち
その95 若き虎たちの時
その96 新しき疾風
その97 誘いの王
9巻
その98 最強の孤独
その99 空を見る天子
その101 太尉袁紹
その102 弟よ!
その104 争いを好まず
その105 それが乱世だ!!
その106 惇の一声
その107 燃える狩り場
その108 都と天子!!
10巻
その109 夢の曹操
その110 三つ星の夜
その111 鬼より陥すべし
その112 典韋の武
その113 天と地の間に
その114 子脩の剣
その115 王の帰還
その116 沈黙の王
その117 曹操直言
その118 まほろばの軍師
その119 荀彧の決断
その120 袁紹の檻

11巻
その121 賈詡、再び
その122 曹操を追撃せよ!!
その123 鬼謀と神算
その124 不動の魔神
その125 青龍刀の男
その126 王者の投降
その127 陳宮の決意
その128 籠城
その130 戦場の美女
その131 雪を走る水

12巻
その132 門を開けろ!!
その133 白門楼
その134 呂布の雄叫び
その136 最強への道
その137 天下遼遠
その138 劉備を狙え
その139 大魚と大袋
その140 覚醒
その141 天意と雷鳴
その142 千年の王

13巻
その143 天下一周
その144 曹操のまじない
その145 黎陽逍遥
その146 美しき誹謗
その147 覇道の羅刹
その148 侠の投降
その150 気の柱
その151 旭日の大戦
その152 侠者死すべし
その153 白馬のふたり

14巻
その154 第二の装束
その155 tandem seat
その156 逆転
その157 心の闇
その158 官渡を目指せ
その159 長江群雄図
その160 敗けずの徐晃
その161 王者の進軍
その162 死に易き者
その163 官渡、炎上
その164 動き出した巨獣

15巻
その165 堕ち星と亡者
その166 百日して曰く
その167 若き王の猛り
その168 孫策堂々
その169 風の如く炎の如く
その170 頭痛
その171 至福の在り処
その172 闇に宿る光
その173 北の焦燥、南の闘志
その174 戦場への帰還
その175 戦いの旋律

16巻
その176 驚愕
その177 王を見よ
その178 諸葛亮孔明
その179 城壁の亡霊
その180 とまどう策士
その181 曹操はここだ!
その182 伏兵を従えて
その183 咆哮
その184 袁兵の渦
その185 心火のままに
その186 激情のオブジェ

17巻
その187 脾肉の嘆
その188 臥龍の臭い
その189 戦にあらず
その190 淫と麗
その191 冒涜の計
その192 三顧の礼
その193 孔明のいる風景
その194 真っ向将軍
その195 侠気、鳴り止まず
その196 曹の血脈
その197 乱世のディーバ

18巻
その198 天命の人
その199 夢幻一夜
その200 許都へ
その201 才の奔流
その202 誕生の宴
その203 軍師一代
その204 純粋軍師
その205 漢人にあらず
その206 戦場の眼
その207 交錯せしは生死
その208 陶酔止みて後

19巻
その209 臣から王へ
その210 軍略は止まず
その211 南の策動
その212 気配なき曹操
その213 下劣な策
その215 騎都尉、曹操
その216 蒼氓の家族
その217 殿の虎
その218 武威の烈風
その219 obsession

20巻
その220 気乗らぬ戦
その221 逡巡橋
その222 蛇矛のうなり
その223 蒼天の武
その224 侠の血脈
その225 人外の侠
その226 不言の問答
その227 SOMETHING IN THE CELL
その228 乱世の父
その229 生きろ
その230 父の命、子の命

21巻
その231 月と道化師
その232 月下の命
その233 月下斬舞
その234 まっすぐに生きる
その235 水魚の交わり
その236 鬼嚢の物腰
その237 天下の大呼
その238 劉備宣言
その239 劉備シンドローム
その240 望膾炙
その241 儒の息づかい

22巻
その242 Yin&Yang
その243 無謀の方程式
その244 凛なる琴の夜
その245 孫呉の会堂
その246 孫呉の会堂-地の段-
その247 孫呉の会堂-人の段-
その248 八頭の獣たち
その249 POROROCA
その250 大河の遭遇
その252 地獄の扉
23巻
その253 悪夢
その254 臨死の河
その255 偉大なる長江
その256 巨大な翳
その257 風の中の周瑜
その258 描く者たち
その259 陳武と吾燦
その260 首級謀書
その261 本性
その262 死淵の交わり
その263 阿瞞の笑み
24巻
その264 天下人ふたり
その265 二人一影
その266 視えざるもの
その267 大河の静寂
その268 灼熱のかがり火
その269 帰還者の暴威
その270 天下人の領域
その271 激なる丞相の時間
その272 修羅の断
その273 魔王への回廊
その274 赤き壁-0-
その275 赤き壁-極点-
その276 赤き壁-昇華-
25巻
その277 樵の日差し
その278 陽を捧ぐ者
その279 乱世の城 (劉馥りゅうふく)
その280 昱の夢 
その281 怨みの大地
その282 王たる将
その283 裁きの矢
その284 愚牛
その285 気高き眼光
その286 大いなる寿
その287 江南の花嫁
26巻
その288 耀華の都
その289 二雛
その290 仁杯
その291 美周郎
その292 春節の轍
その293 神医・華陀
その294 漢の経脈
その295 激情、発令!
その296 雪天の彼方
その297 白圭
その298 輝く才の使命
27巻
その299 才の階
その300 煌く炎塵
その301 媚薬の議
その302 乱の華
その303 万彩の陣
その304 猛志の砦
その305 戦いの縦横
その306 半世紀の武人
その307 笑殺
その308 Pinpoint rush
その309 鷹の習性
28巻
その310 無双の守護心
その311 ふたつの書状
その312 異境の主
その313 交馬語
その314 離間の計
その315 静かなる決裂
その316 鬼才の本領
その317 錦馬超
その318 風骨の国
その319 樵のふたり
その320 君は君でしかない
29巻
その321 漢-くに-
その322 ラストワルツ
その323 蜀への道
その324 大器、発進
その325 鳳雛の口
その326 濡須塢(じゅしゅう)にて
その327 主君の音
その328 涼州掃討
その329 さすらいの彼方
その330 大徳の仮面
その331 珠玉の使者
30巻
その332 建安19年の空に
その333 中世への血
その334 曹操という時代
その335 奇襲部隊を連れ戻せ
その336 閃光の華
その337 五斗米道・張魯
その338 人呼んで寒貧
その339 魏王へ
その340 毒と毒薬
その341 合肥視察
その342 遼来来

31巻
その343 合肥焔焔
その344 三代の天命
その345 方頤大口、目に精光あり
その346 さらなる武界へ
その347 奇襲には奇襲を!
その348 戦士と優駿
その349 孫権、雷撃!
その350 呉下の阿蒙にあらず
その351 嵐の一手
その352 その性のままに
その353 魏王の座

32巻
その354 将軍たちの前夜
その355 新生劉備軍団
その356 激情の後継者
その357 戦場の算術
その358 爆走漢中戦
その359 狼牙の弓
その360 煌めく軌跡
その361 杜鵑の花
その362 剣山からの誘い
その363 不動の陣
その364 希求

33巻
その365 夏侯淵 妙才!!
その366 もうひとつの魏国
その367 慟哭の讃歌
その368 姓は魏、名は諷
その369 黒光の夢
その370 星霜巡りて
その371 無名の軍師
その372 手負いの老将
その373 奇画策算あり
その374 丑寅の砦
その375 黒衣の山

34巻
その376 万の夜に残る星
その377 宣告
その378 漢の源
その379 戦線
その380 積乱雲たつ
その381 威名豪然
その382 漢の世界
その383 絶対的原則
その384 于禁と龐悳(ほうとく)
その385 関羽の立つ世界
その386 異界、増幅!

35巻
その387 天下の趨勢
その388 都の際
その389 風靡の才
その390 分岐の1夜
その391 桃園の夢
その392 兵家必争の地
その393 不敗の処方
その394 武侠の結界
その395 戦イノムコウ
その396 遠雷
その397 関羽へ

36巻
その398 目隠し鬼
その399 孫呉包囲網
その400 使者 書状を読み上げてのち曰く
その401 麦城の辞
その402 公子乱舞
その403 活路、天道なり
その404 関羽を描く
その405 百倍の首
その406 至純、至強
その407 わが呉
その408 永遠の雷名
最終話 Beyond the Heavens

2011年10月8日土曜日

2巻 その16~その18 曹操の裁判

2巻 その16~その18 曹操の裁判

「その16 帝」



宦官張譲が裁判官橋玄(きょうげん)にプレッシャーをかえるシーン

張譲

「あの曹操という小僧の罪状は明らかです。

斬首(ざんしゅ)以外に妥当なる刑はございませぬ。

だが、厳格な裁きが曹操に殺(さつ)を下せぬ時は

裁いた人間に殺を下すのは私の務め」


コメント

ちかごろまともな裁きをできない裁判官が多い。
「まともな裁きができない裁判官、検察官、警官に罰を下すのは国民の務め。不正な官僚は罷免しよう。」




「その17 鬼神」

裁判官橋玄の独白

「張譲は帝の印璽を預かり思いのままに詔勅(しょうちょく)を発することができると聞く。

法の番人 橋玄よ。

己は詔勅に抗(あがな)ってまでも法に仕えることができるのか。」





曹操の裁判

橋玄
「曹操 字(あざな)は孟徳 沛(はい)の人 曹騰(そうとう)の孫にして曹嵩(そうすう)の長男 現在 洛陽に住まう齢(よわい)16歳

以上に相違はないか?」

曹操 「はい」

橋玄
「審議を行う前にひとついっておく。

私は法に仕える人間である。


私の前で虚偽を申さば断首である。ただ真実のみ申せ。」


 橋玄
「過日 きみは中常侍(ちゅうじょうじ)張譲様の屋敷に乱入し、水晶なる使用人を拉致せんと18名を殺傷して逃亡したこと相違ないか?」

曹操「正確ではない」

橋玄「どこがどのように正確ではないのだ?」

曹操
「まず乱入ではない!

私は武器をたずさえず正面玄関で案内を乞うた。

そして水晶を妻にするため彼女の返還を求めたのだ!

拉致ではない。

張譲は返還を断る正当な理由がないにもかかわらず、それを拒み、衛兵に剣を抜かせた。

私がそこで15人を殺し3人を傷つけたといわれれば、そうだと答えよう。

しかし、法によればそれは正当なる防衛というものだ!

むしろ罪は張譲にある。

水晶を殺すばかりか屍にも辱めを与えたあの卑劣漢こそ、ここで断罪されねばならない!」

橋玄「張譲様の証言によれば、きみは水晶を強奪しようとし」

曹操「返還を強奪というならそうだ!」

橋玄「その際にそれを止めに入った張譲様の頬を剣で切りつけ傷を負わせ、さらに」
 
曹操「私なら奴の首をはねている!」

橋玄「逆上したきみは逃げる時に水晶も殺している」

曹操「妻にするのが1日遅れたことを罪とするならば、私が水晶を殺したことになる」
 
橋玄「多くの衛兵も張譲様の証言を裏付けておる!

この世で これを否定するのは きみの叫びのみだ。

きみだけが きみを弁護しておる!

それともなにか! きみの他に誰かそれを見ていた者がいるのか?」

曹操「いる」

橋玄「誰だ!それは」

曹操「天だ」

「その18 天の法衣」

曹操
「水晶は死に 衛兵は口を封じられ 佞臣(ねいしん)は虚言を吐けども
 
天の眼はあざむけぬ」
 
橋玄「天? とな
 
人は助命を乞うために何でもいうものだ!

しかし 人は天のことを知ることはできぬ!」
 
曹操
「天を知らずして法に従うとは笑止ではないか!
 
あなたは法の正しさを疑わぬが では 法はなにゆえ正しいか

法は 天意に則(のっと)った時にのみ正しい」

橋玄
「私に向かって法を説くか!

これより先の記録は一言も漏らすでないぞ

きみは天を語り 法を語る だが 天は証言せぬ!

曹操 最後にひとつ訊く

天がきみに命を与えたらきみは何をする!?

もし このまま生きられるなら天下で何をしたいのか!?」

曹操

「漢朝400年 帝室乱れ 国病む

王者に覇気なく 外戚(がいせき)・宦官の害甚だしく

天下は怨念不満に満つ

民草貧しく 悪官汚吏(あっかんおり)利をむさぼる

これ獣畜生の世といわずして なんといおうや!

これを裁かずして正柱(せいちゅう)を律さずして天下の正義はない!

そもそも国家とは万民の大義! 天下の大義なり

しかし かつて天下の大義をもって世を治めた覇者はおらぬ!

曹操孟徳 今 覇者に非(あら)ず 然れども 天下の大義を知る

天が機会を与えるならば 我 天下を治るに至る!」

橋玄
「法の衣を纏うがよい!

わしの名は司法官の橋玄である

きみは種になる人間だ
 
いかなるものに育つ種かは分からぬが

少なくとも治世においては姦賊の類であろう しかし

きみの語るように この世はまさに乱世

君は英雄を志し なお 英雄となりこの乱世を治め得る人間か!?

人はきみを乱世においても姦雄と呼ぶやもしれぬ

しかし 天と一体になっている若者を断ずるのは この橋玄の任務ではない!

その任務は天そのものに預けることにする!

曹操! 立てい! 去れい!

行けい 曹操孟徳」

橋玄独白「この裁きにより 我が人生は価値を得た」












2巻 その15 鶴雲

02巻 その15 鶴雲

曹操が張譲のもとから逃げ、自宅へ戻り、役人に捕捉されるシーン


曹操

「父上! 母上!

今 私の身の上に起こっている全てのことは

天が私に授けられた試練でございます。

くれぐれも無用の心労はなさいませぬよう。」



曹操が捕捉しに来た役人に向かって

「 お前たち!

大空の鶴雲を捕え しかも

それを裁くことができると思っておるのか」



2巻 その14 張譲の傷

2巻 その14 張譲の傷

曹操が宦官張譲に水晶の返還を求め、衛兵と争うシーン

曹操曰く、

「一人の敵を屠(ほふ)るには一振(ひとふり)の剣があればよく。

一群の敵を屠るにはさらに一槍(いっそう)があればよい。」



「お前たち!

天下の武人たらんと欲するならば

この曹操孟徳の許へ来い!」



 デモを弾圧する警官や自衛隊たちに向かって言ってみたい。

 こんど悪徳商人、官僚、政治家のところへ、無辜の市民から巻き上げた財産の返還を求めに行ったときに、警護する人たちに言ってみたい。





曹操が張譲から命からがら仲間の許へ逃げ、仲間に告げるシーン

曹操

「いかなる事があっても生き延びよ!

生きて地に潜り我が号令を待て!

わからんか!

潜め!!

潜まぬと全て根絶やしにされるぞ。

心して雌伏せよ!」


 万が一言論の自由が奪われ、集会の自由がなくなったとき、この言葉をはき、地下に潜らなければならない。



2巻 その12 アモーレ!!

2巻 その12 アモーレ!!

曹操孟徳が宦官張譲に水晶の返還を求めるシーン

曹操曰く、

「あなたは天子様に仕えながらその力は大官僚の人事まで及ぶ勢い。

天下にそれを知らぬ者はいません。

だが 私の予譲(よじょう)はさがせません。」






予譲:晋の刺客。智伯(ちはく)に仕え、智伯が滅ぼされるや、

「士は己を知る者のために死す」

という言葉を残して命がけで復讐しようとした。


司馬遷「史記」刺客列伝より